VISIT連載企画 医療人。第六回|訪問看護ステーションの転職&見学 求人情報サイト「VISIT」VISIT連載企画 医療人。第六回

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医療人6

こんにちは、看護師の太田(仮)です。
六月も後半戦に突入しましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
お天気のぐずつきも日増しに増え、湿度に加えて寒暖差もあるのでどうにも疲れが抜け辛い毎日が続きますね。

年開けから混乱続きの2020年もすでに折り返しに差し掛かりましたが、なかなかコロナウイルスにまつわる状況が終息していく予想は立ちません。

それでも日々の営みは続いていきます。
その営みの形が少し変わっても、そこに人の想いや気持ちが溢れているという点はずっと昔から変わらないのかもしれないですね。

さて、本日のコラムでは前回お伝えさせて頂いた通り訪問看護の自費利用サービスを使ったご利用者様の、「想いに溢れた時間」の思い出をお話させてください。

6月はジュンブライドの季節とも言いますね。
寂しさも当然あるけれど、とても素敵な時間に立ち会わせて頂いたお話です。
それではどうぞ。
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インタビュアー

執筆者 訪問看護ステーション管理者 太田(仮名)
東京都内で訪問看護ステーションの管理者を行っています。現在は訪問看護を中心に、自身の経験などを通じて多くの従事者や、医療介護の現場を知らない人たちにも情報や思いを届けたいと思い執筆活動などを行っています。
余命数日の願い
「3日後の娘の結婚式に出たいんだ」

65歳のAさんがおっしゃりました。
Aさんは私たちが訪問看護に入らせて頂いているご利用者様です。
末期のすい臓がんは肝臓、脾臓、腹膜にも転移しており、胃管ドレナージ中、尿道カテーテル挿入中、貼付麻薬使用中などのご状況の方でした。

あえて包み隠さずに言えば、余命は残り数日。

突出した吐き気がでてきており麻薬量増量、持続点滴麻薬使用検討中というご状況の中発せられたものでした。

「苦しくても管を全部とり、タキシードで娘とバージンロードを歩きたいんだ。」

もちろんご本人も余命が残り少ないという事は自覚をされており、そのうえでこの最後の気持ちを叶えたい、というご本人とご家族の方の想い。

私たちもその想いに必ず応えたい、そう思ったことを今でもよく覚えています。
Aさんの想いに応えるように、医師からの許可がでました。

ここからは私たちのお仕事です。
まず、民間救急車の手配をしました。
結婚式場までは片道40分といった所でしょうか。

全身状態が悪くベッドに寝た状態で移動したい場合、民間救急という寝台車が利用可能です。
寝台車の中では点滴治療も行え救急車のような環境です。
いざ移動の準備ができましたが、移動して車椅子にうつり、バージンロードを歩くという体力はもう残されていない状況にきていました。
また、癌の浸潤により消化器官が機能しなくなり、胆汁が逆流し胃管ドレナージが必要な状態でした。これをしないと激しい吐き気がでてしまいます。

それでもこの結婚式の時間帯だけは、管を外したいAさんの希望を叶えてあげたい。
医師と麻薬量の調整をし、管を抜く準備をし、当日の朝を迎えました。
血圧は70台/s。
麻薬の影響もあり、時折意識が遠のくような様子も見受けられました。

「おはようございます。本日はおめでとうございます。」
私の言葉に、Aさんはそれでもしっかりと頷きました。

胃管ドレナージを抜去、尿道カテーテルを抜去、その後タキシードに着替えました。
着替えるだけでも呼吸が乱れます。
民間救急車が到着し、移動中点滴を投与。
血圧は不安定で60台ー70台/sを推移していました。

移動中は閉眼し、このまま起き上がることは不可能ではないかと、そう考えて居たころ、式場に到着しました。
車の後ろの扉が開き、そこには新郎と新婦さんが涙を流しながら待ち構えていました。

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Aさんの目が輝きました。
「おめでとう。いくぞ。」

Aさんはそう言い、起き上がる準備をしました。
点滴を外し、麻薬を投与し、車椅子に移乗しました。
どうかどうか、挙式の間だけは血圧を維持してください。
お願いです神様・・・・。

看護師としてできることは急変しても周囲が混乱しないこと、苦しさが悪化した際にはすぐに寝台車に戻り処置すること、そして、ご家族と同じ想いで祈ることでした。

到着してすぐに挙式は始まりました。
式場の方々には式中にAさんが亡くなっても決して救急車を呼ばないように伝えました。
自宅で医師が看取る手配ができています。

緊張感の中、式は始まりました。
既にバージンロードを歩く体力はなく、車椅子のまま行きました。
式では終始、「おめでとう」「ありがとう」

こんなににこやかなAさんを見るのは本当に久しぶりのことです。

Aさんは花びらを何度も宙に浮き上げ、微笑んでおられました。
自宅にいたこの壮絶な数週間では考えられないほどのアドレナリンが今、Aさんを支えています。

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短時間の式が終わり、親族写真を撮り終えました。

「あとは挨拶だ、連れて行ってくれ。」

Aさんは私にそう言い、お相手のご両親に挨拶に行きました。

「あとはもうないか、、、大丈夫か、、、」

あたりを見回し、Aさんはやり終えた表情をしていました。

「世界一奇麗だろ。僕の娘は。」

Aさんの言葉を一字一句漏らさないようにメモをとりました。
この先、この言葉が娘さんの支えになりますように。
結婚式にでたことが家族にとって少しの後悔にもなりませんように、という願いを込めて。

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式を終え、寝台車に乗りバイタルを測定したところ、余命数時間だと思われました。

吐き気もない、苦しさがでていない、これだけ体力を使って奇跡の時間が過ごせています。

でもこの幸せな時間にこの事実を家族に伝えることは、非情につらいことでした。
看護師として100点のサポートをしたい。
そう心で強く想いました。

「自宅まで移動中血圧が保てるかわかりません。苦しくならない処置をしっかり行います。皆さん慌てずに、ゆっくりとご自宅にお戻りください。」

こんな結婚式は初めてでした。
こんなに素晴らしい結婚式は初めてです。

自宅に到着後、Aさんはこういいました。
「全然つらくないんだ。このまま管はいれないでくれ。」
医師に報告し、見守りました。もう尿は24時間以上でていません。
帰宅して穏やかなAさんに家族皆ほっとしました。
でもこれは奇跡です。この奇跡は長くは続かないんです。

体はもう限界の状態にあること、おそらく余命は今日であることをご家族にお伝えしました。

日付が変わった翌日0時過ぎ。
Aさんは結婚式の日を超えました。
Aさんは苦しむことなく亡くなりました。

ご家族はAさんの最期の頑張りを、讃えていました。
娘さんは「式の間、看護師さんのことを最期の時間にやってきてくれた天使に思えました。」
そんなふうにおっしゃってくださりました。
自費での訪問看護を実現できて本当によかったと思いました。
そして、私のほうこそ諦めないで努力することをたくさん教えて頂きました。
訪問看護のお仕事は利用者さんからたくさんのことを教わり、学ばせてもらい、たくさんの経験を積ませて頂きます。
もっとできることはなかったか、アセスメントは正しくできているか、自問自答しながら、ひとつでも多くの希望を叶えてあげられるように今後も自費でのご利用を実現できるように努めたいと思います。
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